♪せつないおもいをうたにして あめふるしんかいち♪
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そこには、見た事もない男の子の写真があった。
しかし学生服を着ているから、学生であろうことは想像できる。もしかすると昔の写真かもしれないが、少なくともそこまで年月は経っていない筈である。
「あ・・・」
しかし、千夏は気付いてしまった。その学生服が、大樹が着ているものと同じであることに。ということは、彼女が前の学校で仲が良かった男の子というのは・・・。
それ以上深くは考えず、写真立てを元通りにして机の上に散らばっている物の中から適当にペンを手に取り、早々に部屋を立ち去った。
居間はまだ重い空気に包まれていたが、千夏が戻ってくると幾分良くはなった。
「おかえり、千夏ちゃん」
言って薄く笑う。大樹も弱々しく千夏を見て笑った。
「はい」
とりあえず手に持っていたペンを大樹に差し出した。しかし大樹はすぐには受け取ろうとせず、しばらくそのまま考え込んだ後に陽子を見た。
「本当に、いいんですか?もらっちゃって」
「もちろん。そうしてもらった方が嬉しいわ」
さっき以上の笑みで陽子は返し、大樹も吹っ切れたようにペンを手に取った。
「じゃあ、僕たちはこれで失礼します・・・」
「あら、もう帰るの?ゆっくりしていけばいいのに」
「いえ、親も心配するので」
「・・・そう」
陽子の表情は複雑だった。千夏はまた、二人の顔を交互に見比べていた。
「だったら、玄関までお送りするわ」
陽子が先頭に立って歩き出し、千夏と大樹もその後ろをついていった。スリッパを脱いで揃えて置き、外履きに履き替える。
「本当に、いきなり来てしまってすみません。お邪魔しました」
身を正して改めて大樹が言う。千夏もそれに形だけ倣った。
「いえいえ、何のおかまいもできませんで」
やまびこのように陽子も礼を返す。
「では、失礼します」
ドアを開けながら大樹が言う。
「さようなら」
千夏が言って背を向けようとすると、陽子の目からまばたきをするように酷く自然に涙はこぼれた。涙が伝っていることを除けば、どこにでもあるありふれた微笑みである。しかし涙に触発されるかの如く瞬く間に陽子の顔は歪み、崩れ落ちた。
感情も多少は働いているのかもしれないが、殆ど反射的に千夏は駆け寄ろうとした。しかし、第一歩を踏み出した所で大樹がそれを制止した。千夏の表情から窺い知れる「?マーク」を意に介さず、大樹はその場に立ったまま「元気出してください」とだけ述べて、千夏の手を引っ張り家を後にした。
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